監修

裵 英洙(はい えいしゅ)

ハイズ株式会社代表取締役社長
医師、医学博士、経営学修士(M.D.、Ph.D、MBA

 

金沢大学医学部を卒業後、胸部外科を中心に臨床経験を積んだ後、同大大学院にて外科病理学を専攻。病理医として働くかたわら、慶應ビジネススクールにて医療政策・病院経営を学ぶ。在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立し、現在ハイズ株式会社代表取締役として医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザーなどの業務を行っている。著書に、「医療職が部下を持ったら読む本」「なぜ、一流の人は『疲れ』を翌日に持ち越さないのか」「10の仕事を1の力でミスなく回す トリアージ仕事術」などがある。

第1回 どうしてそんなに機嫌が悪いの? ~コミュニケーションの基本~

高尿酸血症を含む生活習慣病では、診療に対する患者さんの満足が得られなければ、治療自体が成り立ちにくくなります。患者さんの不満は、治療の中断やアドヒアランスの低下などにつながり、クリニックの評価や経営にも影響を及ぼします。しかし、患者さんは医師に対して自分の感情を表現しづらく、医療者側が想像力を働かせ、不満の原因を取り除いていく事が必要だと考えられます。

このコンテンツでは、あるクリニックを受診する患者さんの気持ちをモノローグ(独白)形式で紹介し、患者満足度向上のポイントを裵 英洙先生にご解説いただきます。

モノローグを見る

Case 01

今回の患者さん

北村英一郎(52歳、男性)飲食チェーン店運営会社役員

身長168cm、体重74kg、BMI26.2kg/m²、健康診断にて高尿酸血症(血清尿酸値8.9mg/dL)および腎機能の中等度低下(eGFR 57mL/min/1.73m²)が指摘された事から1週間前に受診。初診時に生活指導と血液・尿検査を実施し、今回は2度目の受診。何事も減点方式で考えてしまう性格。

降水確率50%の日に雨が降ると、損した気分になるのは私だけだろうか。

家を出てから数分後に降り出した雨は、折りたたみ傘では心もとないくらいのどしゃ降りになった。普通に出勤していれば濡れる事はなかっただろうが、クリニックの予約時間に合わせて出たらこれだ。ついていない。

通院は楽しいものではない

健康診断で尿酸値が高いと言われ、1週間前に近くのクリニックに初めて受診した。周りに痛風経験者は何人もいる。発作を起こして数日休むのを考えれば、受診にかかる数時間はリターンに合った投資だ。今日は検査結果を聞いた後、きっと薬が出るだろう。

通院は楽しいものではない

患者さんにとって受診は楽しいものではなく、来院時はマイナスの気分であると捉えるのが妥当です。特に悪天候のときなどは、さらに気分が悪いものです。天気のほかにも様々な理由で患者さんの気分は沈みます。患者さんは楽しい気分でないということを念頭におき、クリニック内の雰囲気を明るくし、スタッフの温かい挨拶や気配りで患者さんの気分を持ち上げましょう。高尿酸血症の治療は継続することが重要であるため、気持ちよく通院いただける環境づくりが大切です。

クリニック内は薄暗く、屋外のどんよりとした空気に浸食されているようだった。スリッパに履き替えて、受付に向かった私は足を滑らせバランスを崩した。

「あぐぅ!」…何とか倒れず持ちこたえたが、変な声が出てしまった。恥ずかしい。


待合室の椅子に座ってから、滑った原因に気付いた。玄関付近の床が濡れているのだ。

理念が具現化されていない

うちの会社の店舗でこんなのを放置していたら、マイナス査定は確実だ。3点減点。そういえば、よろめく私を見て、スタッフは声ひとつかけなかったな。追加で5点減点。

患者さんの不満の因数分解

理念が具現化されていない

クリニックを清潔に保つことは基本であり、先生方も日頃から意識されていると思います。しかし「クリニックは清潔にしましょう」という理念を掲げ、スタッフに伝えているつもりでも、実際に行われていないと、それはスタッフ間で具現化されていません。コミュニケーションの本質は「伝えること」ではなく「伝わること」。受け手の視点に立ち、きちんと伝わっているかどうかをひとつひとつ確認しましょう。伝われば行動につながっていきます。

患者さんの不満の因数分解

患者さんの不満は、質(不満の内容)と量(不満を感じた回数)に因数分解できます。コップの水で例えると、目を合わせなかった、気遣いが足りなかったなどの小さなことでも、重なると不満は大きくなりコップに水が溜まっていきます。一方、非常に大きな不満があると1回でもコップの水があふれてしまいます。今回の事例では、コップの水がだんだん溜まっていって最後はあふれるという形なので、どこかの段階で気付いてあげなければいけません。

ふと新聞から時計を見やると、予約時間から10分が経過していた。診療が遅れているのか。15分経過。会議に間に合わないかもしれない。念のため秘書にメールしておこう。20分経過。受付に聞くと「たぶん、もうすぐだと思います」と気の抜けた返事。10点減点ものだ。「たぶん?」強めの口調で聞き返すと、「えっと、北村さんは次の次です」…おい、予約の意味ないじゃないか。30点減点!

不満の対処は早めに行う

不満の対処は早めに行う

予約をしていただいても、前の患者さんが長引くことは十分あります。最初に「前の患者さんが詰まっており、また重症の患者さんがいて、予約時間にお呼びできないかもしれません」という一言があれば、怒りもそれほどなく収まったかもしれません。また、予約の時点で少し前後する可能性があるとお伝えしておくこともいいと思います。

やっと診察室に呼ばれたときは、予約時間から30分が経過していた。院長は詫びるどころか、目も合わせずにカルテをしきりに繰っている。

受付からシグナルを 必ず2秒は見よう

「え~と、北村さんの検査結果は…あれ?これ北原さん?ちょっとお待ちください」

3つの問題

受付からシグナルを

まず「お待たせしてすみませんでした」という一言があれば、結果はだいぶ違っていたでしょう。この院長は患者さんが待たされたことを知らないのでしょう。スタッフがメモなどで「30分ほどお待ちいただいてイライラしています」と伝えてあげれば良かったかもしれません。私はどの患者さんに対しても「お待たせしてすみません」と必ず言うようにしています。

必ず2秒は見よう

カルテから目を離さない医師が多いのですが、私は入室のときに必ず患者さんを2秒見るようにしています。2秒見れば、イライラしている雰囲気も読み取ることができます。高尿酸血症患者さんの場合では、体重の増減やメタボ体型かどうか、疼痛や違和感により不自然な歩き方になっていないかなど、診療に役立つ情報を得ることもできます。

3つの問題

ここには3つの問題があります。1つ目は個人情報の流出の懸念。これはあってはならないことです。2つ目は、前の患者さんとの間にクリアな境界がないこと。一人の患者さんが終わったら、そこでリセットして新しい患者さんをお迎えしましょう。医師にとっては1対多ですが、患者さんにとっては1対1なのです。3つ目は「見えにくいコスト」の存在です。整理整頓は必ず行いましょう。検査結果を探す時間のロス、間違って違う患者さんのデータを見せてしまうというアクシデントの処理コスト、信用・信頼の棄損など、見えにくいですがコストにつながります。

「見えやすいコスト」と「見えにくいコスト」
「見えやすいコスト」
  • 過剰な在庫 山積みになった薬品や医療材料・器具などの購入コスト
  • 不要な在庫 購入したのに、結局使われずに処分される物品のコスト
  • 保管場所のコスト 不要な物が収納場所を占めている場合、必要な物品を置くためにさらに場所を確保する必要がある。新たに棚を設けるためのコストや、その場所の賃料・土地代など
「見えにくいコスト」
  • 物を探す時間 物品がすぐに見つからない場合、職員が時間をかけて探す必要がある。その時間だけ、人件費が発生している。手術室など部屋の稼働率も下がる
  • アクシデントの処理費用 物品切れや、物品の選択ミスによって適正な結果が得られなかったり、事故が発生した場合はその処理にコストが発生する
  • 在庫切れによる機会損失 在庫管理ができておらず物品切れが発生した場合、やむなく手術日を遅らせたり他院に紹介するなどで治療の機会を逸することがある。その分、収入が減る

裵 英洙:医療職が部下を持ったら読む本.p129,日経BP社,2014

かくして診察室にひとり残された私の頭の中では、減点カウンターが回り始めた。「お待たせしました。前回の血液検査の結果がこちらです。尿酸値は9.0mg/dLとかなり高く、高尿酸血症ですね」カウンターはぐるぐる回る。「このままですと痛風発作の可能性が高いので、尿酸を下げる薬をお出しします」ぐるぐる、ぐるぐる。「…あ、少し腎機能も低下しているのかな。ちょっと待ってください。計算します」カチッ。カウンターは限界に達した。

「もういいから、とっとと薬だけ出してくれ!」

まず受け止める 院長の器

まず受け止める

患者さんが最初に発言したことが怒りの言葉というのは、よっぽど感情が出ているということです。もし信頼関係が構築できていれば、「今日は予約したのにすごく待たされた」というお叱りから始まるのではないでしょうか。今回の例では、信頼関係ができていなかったため、いきなり怒りの言葉につながったのだと思います。対応のコツは、怒りの言葉はまず受け止めることです。否定や言い訳をせず、「ああ、そういうことが起こっていたんですね。すみません」と受け止めて、その後、何か理由があるなら言います。受け止める前に言い訳を始めてしまうと、火に油を注いでしまいます。

院長の器

今回の患者さんのようなタイプは、スタッフにも強い言葉を使っている可能性があるので、院長が後で「大変だったけれど、ありがとう」などとフォローするといいですね。なお、「今日の患者はひどかったよね」などと非難すると、院長の器が知れ、一気に職員のモチベーションが下がってしまう可能性もあります。職員同士の会話でも決して患者さんを非難するのではなく、我々の誤りは何だったのか、という姿勢を基本にすべきです。

ウリアデック ワンポイント インフォメーション 尿酸低下作用は腎機能(中等度低下まで)の影響を受けない

腎機能別の血清尿酸値変化量(サブグループ解析)

【腎機能】
推算糸球体濾過量(eGFR)を指標として、正常:90≦eGFR、軽度低下:60≦eGFR<90、中等度低下:eGFR<60mL/min/1.73m²

目  的
承認時までに実施した痛風を含む高尿酸血症患者を対象とした5つの国内無作為二重盲検並行群間比較試験(第Ⅱ相試験3試験及び第Ⅲ相試験2試験)の結果より、推算糸球体濾過量(eGFR)を指標とした腎機能の程度別に血清尿酸値低下作用を比較する。
投与方法
ウリアデックを1日2回(朝夕食後)、8、12、16又は22週間経口投与した。ウリアデックは40mg/日から開始してその後増量し、投与終了時の用量は80mg/日、120mg/日、160mg/日とした。
解析計画
投与前eGFR別の尿酸低下作用について、サブグループ解析を行う。
安 全 性
副作用の発現率は、腎機能(eGFR、単位:mL/min/1.73m²)別に90≦eGFRで44例中15例(34.1%)、60≦eGFR<90で245例中69例(28.8%)、eGFR<60で101例中38例(37.6%)であった。
使用上の注意
(一部抜粋)
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)重度の腎機能障害のある患者[使用経験がなく安全性が確立していない。]

(株)三和化学研究所 社内資料:
国内臨床試験における層別解析 腎機能【承認時評価資料】

血清尿酸値変化量は腎機能の軽度低下群(60≦eGFR<90)および中等度低下群(30≦eGFR<60)において、腎機能正常群(90≦eGFR)と同程度の低下を示しました。

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