監修

裵 英洙(はい えいしゅ)

ハイズ株式会社代表取締役社長
医師、医学博士、経営学修士(M.D.、Ph.D、MBA

 

金沢大学医学部を卒業後、胸部外科を中心に臨床経験を積んだ後、同大大学院にて外科病理学を専攻。病理医として働くかたわら、慶應ビジネススクールにて医療政策・病院経営を学ぶ。在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立し、現在ハイズ株式会社代表取締役として医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザーなどの業務を行っている。著書に、「医療職が部下を持ったら読む本」「なぜ、一流の人は『疲れ』を翌日に持ち越さないのか」「10の仕事を1の力でミスなく回すトリアージ仕事術」などがある。

第6回 満足度調査でショック! ~クレームは患者さんのプレゼント~

高尿酸血症をふくむ生活習慣病では、診療に対する患者さんの満足が得られなければ、治療自体が成り立ちにくくなります。患者さんの不満は、治療の中断やアドヒアランスの低下などにつながり、クリニックの評価や経営にも影響を及ぼします。しかし、患者さんは医師に対して自分の感情を表現しづらく、医療者側が想像力を働かせ、不満の原因を取り除いていくことが必要だと考えられます。

このコンテンツでは、ある患者さんとクリニック院長の気持ちをモノローグ(独白)形式で紹介し、患者満足度向上のポイントを裵 英洙先生にご解説いただきます。

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Case 06

今回の登場人物

猫屋敷純平(45歳、男性)ねこやしき内科クリニック 院長

5年前に開業。浮き沈みはあったが、ここ数年でだいぶ経営が安定してきた。これまでの診療の評価を知るために、今回初めて患者満足度のアンケート調査を実施した。高尿酸血症・痛風の診療を得意としている。性格は心配性。

佐藤辰夫(65歳、男性)定年退職/NPO法人ボランティア

5年前に痛風発作を起こしたことをきっかけに、近所のねこやしき内科クリニックに通院し始め、以後継続して尿酸降下薬を服用している。定年退職後に地元のNPO法人で町おこしのボランティアをしている。性格は真面目で温厚。

『当院の診療に』…満足している。『スタッフ対応は』…良い。『待ち時間は』…やや長い。クリニックの受付で渡された患者満足度のアンケート用紙にテンポ良く○を付けていた私の筆は、ここで止まった。『改善すべき点を忌憚なくお書きください』……改善すべき点は、いくつかある。でも、正直に書いてしまっていいだろうか。用紙の右上には患者IDと思われる数字。あまり耳に痛いことを書いてしまうと、来づらくなってしまうかもしれない。

アンケート項目

アンケート項目

院長や職員が考えた患者満足度などのアンケートに答える患者さんは、どうしても自分をポジティブに見せようという意図が働いてしまいます。アンケート項目を検討する際には、まず座談会などを開いて生の声を聞き、そこから得た定性情報を一般化した項目を設定し、数値化しましょう。そのうえで調査を毎年繰り返したデータを基に改善のPDCAを回していくのがマネジメントの鉄則です。今回の話のように、「自由にご意見をどうぞ」という設問はありがちなのですが、それは回答者が構えてしまいます。たとえ匿名化したとしても、アンケートだけでは素直な意見は聞きにくいものです。

5年前に初めて痛風発作を経験した。強烈な痛みで動けなくなり、開院したばかりのこのクリニックに運び込まれた。院長とはそれ以来の付き合いだ。丁寧な指導と薬のおかげで一度も再発せず、感謝しているが……。ふと、待合室のテレビが目に入った。「あれ、あの人…」町おこしのボランティアで知り合った人がインタビューされている。細かく厳しいことをいう人だったが、生産者の声を代弁してくれたことはとても助かった。そうだ、このクリニックに感謝しているなら、しっかり改善点を指摘すべきじゃないか。筆は再び走り出した――。

「猫屋敷先生、患者満足度アンケートの結果です。患者満足度は95%でした!」

満足度調査のゴール

事務員から受け取ったアンケート用紙の束を、おそるおそる、1枚1枚めくっていく。開院5年目にして、初めて実施した患者満足度調査。ここ5年間の地域からの通知表と思うと、気が引き締まる。思ったより評価が高いんじゃないか?と安心しかけたとき、非常に細かく書き込んである1枚が目に付いた。

満足度調査のゴール

満足度調査は「満足度」と「不満足度」を明らかにするために行うものですが、満足度と不満足度は表裏一体ではありません。満足度はどちらかというと調査実施側の自己満足のための数字であり、これを調査する目的は職員のモチベーションアップやプロモーションに使うことです。患者の満足度95%というのは、職員にとっては素直に嬉しいものですし、院内掲示板などに「当院の診療に95%以上の患者さんが満足しています」と記載すれば、クリニックの良いPRになりますよね。一方、不満足度には今後の改善のヒントが隠されています。しかし、不満足を目の当たりにしてショックを受ける可能性もあります。患者満足度調査は改善のための良いツールですが、実施にはクリニック運営者側の覚悟が必要です。

『待ち時間が延びて予約制の意味がない』『院長の早口は時々聞き取れない』『服薬の意義を最初から説明してほしかった』『尿酸値を下げるための生活の工夫を具体的に知りたい』『待合室の時計が5分ほど遅れている』『ウォーターサーバーの紙コップが切れていることが多い』等々。我々が気づいていなかった細かい点が指摘されていた。

不満足と回答する人 不満足を聞き取る技術

不満足と回答する人

満足度調査で不満足と回答する人は、腹が立っているか、応援したいかのどちらかです。「当院に不満足な点はありますか」と問うと、腹が立っている人はクレームとしていうのですが、応援したい人は「これはいってもいいのかな」とか「これまでの関係が崩れるのではないか」と、なかなか思っていてもいい出しにくいものです。そこをいかに聞き出すかが腕の見せ所です。

不満足を聞き取る技術

不満足の情報を得るための手段としては、たとえばクリニックで高尿酸血症セミナーなどを開催して、話を聞きやすい人を集めます。最初は高尿酸血症の話をして、その後に「ところで、当院がもっと地域に貢献するためにはどうしたらいいですか?ぜひ皆さんの厳しい生の声をお聞かせください」というように聞いて、患者さん同士でおしゃべりしてもらうといいでしょう。いかに不満足の声を聞き出せるかは院長との信頼関係にもよりますが、多くの患者さんは「院長が地域のためによく考えてくれている」とポジティブにとらえてくれるはずです。また、診察時に余裕があれば、世間話として意見を聞いてもいいと思います。定期的に「不満足の定性情報を得る日」と決めておくと、意識的に情報を集められます。

今回のお話では幸い、自発的に不満足情報を書いてくれる患者さんがいましたが、通常はそう多くはいません。情報には価値があります。患者さんにアンケートに記入させるより、茶菓子を出して院長が直接伺う等、「教えていただく」姿勢を示したほうが情報を得られやすい可能性があります。

思わず患者IDを照合すると、開院当初からの付き合いの佐藤さんだった。愕然とする。良好な医師―患者関係が築けたと思っていたのに、内心は不満だらけだったなんて。

クレームには2種類ある

指摘はありがたいが、気持ちは正直へこむ。次回、佐藤さんの診察時にはどんな顔をすればいいんだ……

結果を改善に生かす

クレームには2種類ある

患者さんからのクレームには「怒る」「叱る」の2種類があります。「怒る」は、感情的にカッとなり、クリニックに対して自分の気持ちをぶつけることです。この場合は感情を抑えることにまず専念しましょう。一方、「叱る」のは教育的指導の要素が強く、こうしたら良くなるのではないかというポジティブフィードバックの意味がふくまれていますので、お叱りを頂戴したときはポジティブにとらえるようにしましょう。

結果を改善に生かす

アンケート結果を改善に生かすためには、さまざまなコストがかかります。とりあえずアンケートを実施して回答を見てからどうするのか考えるのはスマートではありません。まず仮説を立てて、集計後のアクションが限定されるように設計するのが望ましいアンケートの形です。すなわち、こういう問題点(仮説)がありそうなので、これを検証するためにアンケートを取ったら、こういう結果が出た。では、優先的にこの点から直しましょう、という風に優先順位を付けて実施していくのが賢いやり方です。全ての不満に対して同時に対応するというのは、経営資源投入の方法としてはあまり正しくありません。

よくあるケースは、声の大きいひとりの意見に振り回されて、大きなルールやシステムの変更に着手してしまうことです。ひとりの声が全ての患者さんの声だと勘違いしてしまい、客観的な検証なしに感情的に進めてしまうと良くありません。いったん立ち止まって、本当にこの患者さんの声が大多数の声を代弁しているのかを検証し、それに投資する価値があるのか考える必要があります。

ウリアデック ワンポイント インフォメーション 血清尿酸値6.0mg/dL以下を長期に安定して維持します

第Ⅲ相試験(長期投与試験)

目的
痛風をふくむ高尿酸血症患者121例を対象に、ウリアデックの長期投与における有効性と安全性を検証する。
投与方法
ウリアデックを1日2回(朝夕食後)、58週間経口投与した。ウリアデックは40mg/日から開始し、投与開始2週後に80mg/日、投与開始6週後に120mg/日へ段階的に増量した。投与開始14週後に血清尿酸値6.0mg/dLを超えていた場合は投与開始18週後から160mg/日へ増量、投与開始26週後に血清尿酸値6.0mg/dLを超えていた場合は投与開始30週後から200mg/日へ増量、投与開始38週後に血清尿酸値6.0mg/dLを超えていた場合は投与開始42週後から240mg/日へ増量し、投与開始58週後まで維持した。
評価項目
有効性[主要評価項目として血清尿酸値低下率、副次評価項目として血清尿酸値など]、安全性
安全性
副作用は121例中82例(67.8%)に認められた。投与終了時における投与量別にみると、120mg/日では84例中56例(66.7%)、160mg/日では18例中13例(72.2%)、200mg/日以上では13例中7例(53.8%)に認められた。主な副作用(発現率が5%以上)は、α1ミクログロブリン増加、尿中β2ミクログロブリン増加、β-NアセチルDグルコサミニダーゼ増加、 ALT(GPT)増加、β2ミクログロブリン増加、AST(GOT)増加、血中トリグリセリド増加、r-GTP増加、尿中アルブミン陽性であった。
本試験において重篤な副作用は、2例(大動脈瘤、冠動脈狭窄、うっ血性心不全)に認められた。副作用により投与中止にいたった症例は、7例(大動脈瘤、冠動脈狭窄、うっ血性心不全口唇炎、舌炎、口腔咽頭不快感、発疹、悪寒、冷汗、顔面浮腫、異常感、倦怠感、口渇、AST増加、ALT増加)であった。

(株)三和化学研究所
 社内資料:第Ⅲ相長期58週試験【承認時評価資料】

痛風をふくむ高尿酸血症の患者さんを対象とした長期投与試験において、ウリアデックを58週間にわたり投与しました。その結果、治療目標値の達成後は6.0mg/dL以下を長期に安定して維持するとともに、14週目以降は副作用としての痛風関節炎は発現しませんでした。

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