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尿酸産生酵素XO研究の最前線や臨床応用などをエキスパートに伺います。ここから近未来の診療が生まれる。 (XO:キサンチンオキシダーゼ) 大坪 俊夫 ( おおつぼ としお ) 氏九州大学大学院 医学研究院病態機能内科学 准教授 第2回 XORが関与する病態とは?質問4. 血中のXOR活性が増加すると考えられる病態は? 動物実験では、急性ウイルス性肝炎、慢性肝炎などの肝臓の炎症時にXOR活性が高くなるとの報告があります。これは炎症時、肝細胞内でのXOR発現が増加して血液中に放出されたのだと考えられます。 ほかにも、強皮症、SLE、関節リウマチなどの自己免疫疾患、急性肺障害、COPD、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、肺高血圧などの肺疾患、高血圧、心不全、心房細動、動脈硬化などの心血管疾患、そして、鎌状赤血球症、がんなど多くの疾患でXOR活性が増加すると報告されています。 ヒトで報告されている病態には、COPD、SAS、心不全、心筋梗塞、強皮症やSLE、がんなどがあります。また、虚血再灌流もXOR活性が増加する病態として知られています。虚血再灌流に関しては明らかとなっている点も多いため、詳しくご説明します。 虚血状態などの細胞障害時には、細胞内へのカルシウム流入の増加によりプロテアーゼが活性化され、XDHよりXOへの変換が亢進します。また、同時にATPが消費されてAMPが産生され、最終的にヒポキサンが増加します。大量の基質やXOの存在下で再灌流により酸素が大量に流入すると、XOの反応が活性化して活性酸素が一気に産生されます。こうして組織障害が進行していくものと考えられています。 質問5. 虚血再灌流モデルの研究から明らかとなったXORの働きは? XORの働きとしては、虚血再灌流時などの細胞障害時には、XOR発現量の上昇に伴って活性酸素産生量が増加し、組織障害への関与を示唆する報告を多数認めますが、結論が出ていませんでした。そこで私たちは、マウス(ワイルドマウス、XORヘテロマウス)を用いて、腎臓の虚血再灌流時におけるXORの役割について調べました。 その結果、腎虚血再灌流時には、ワイルドマウスはXORヘテロマウスと比べて、XOR活性が高く、脂質酸化物であるマロンジアルデヒド(MDA)などの酸化ストレスマーカーや炎症マーカーが上昇しており、腎機能の指標であるBUNやクレアチニンも増加していることがわかりました。 さらに、ワイルドマウスに対しXOR阻害薬(アロプリノール)を投与すると、虚血再灌流によるXOR活性、MDA、炎症マーカーの上昇が抑制され、BUN、クレアチニンの増加も抑制されました。つまり、虚血再灌流時の障害には、XORによる酸化ストレスが大きな役割を持っていることがわかりました。 ヒトにおいても、虚血再灌流時のXOR活性の増加が報告されていますので、ヒトの腎臓で虚血再灌流が起こった場合にも、今回のマウスの研究結果と同様にXORによる腎臓の組織障害が起こるのではないかと考えています。 質問6. 今後の研究への期待や課題は? XORが生体でどのような作用を示しているか、またXOR阻害薬使用の好適例を知るためにも、XOR活性の正確な病態に応じた測定が必要になっていきます。 たとえば、今まで心不全の病態では高尿酸血症を認めることが多く、XOR活性も高く、多量の活性酸素が産生され、心不全の進展に関与しているであろうと考えられてきました。しかし、最近の報告では、高尿酸血症とXOR活性は必ずしも一致せず、XOR阻害薬で治療することにより、尿酸値と関係なく心血管イベントや死亡が減少する報告1)や、心不全の患者さんをXOR活性で六分位に分けて心血管イベントの発症などを比較検討すると、XOR活性が高い群のみならず、低い群でもイベント発症が増加する興味深い報告2)が出ています。 XOR阻害薬はXOR活性が高い群では効果が期待できますが、XOR活性が低い群では効果を認めないかもしれません。XOR活性に応じて治療効果を検討する必要があるようです。 それには、XOR活性を正確に測定しなければなりません。最近、XOR活性の正確な測定法が開発されました。上記の報告もこの測定法を用いて血中XOR活性が測定されています。XOR活性に応じてXOR阻害薬の病態改善効果を検討することが可能となってきていて、今後は、XORの病態における役割を明らかにできると期待しています。 最後に。高尿酸血症と高XOR活性は等しくないことも多く、別々にきちんと分けて検討することが必要です。現在行われている、高尿酸血症合併疾患に対する尿酸産生酵素阻害薬の治療効果の臨床研究では、さまざまなXOR活性を有する高尿酸血症患者が含まれている可能性があり、尿酸値別、XOR活性別に詳細な検討が必要と思われます。 古くて新しいXOR蛋白質のヒトでの役割が次第に明らかになってきています。 参考文献
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