エキスパートに聞く! XOの最前線

尿酸産生酵素XO研究の最前線や臨床応用などをエキスパートに伺います。ここから近未来の診療が生まれる。

(XO:キサンチンオキシダーゼ)

大坪 俊夫 ( おおつぼ としお ) 氏九州大学大学院 医学研究院病態機能内科学 准教授

第1回 XORの生理作用とは?

質問1. XORを研究テーマとしたきっかけは?

私は大学院生の時、「活性酸素によるDNA障害と突然変異の制御」をテーマに、8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)などのプリン体酸化物による突然変異の修復機構に関する研究を行っていました。

そこで、留学先は活性酸素に関して研究を行っているラボを希望し応募しました。留学中の研究テーマはボスと相談のうえ、当時、活性酸素の産生源の1つとして注目され、プリン体代謝を調整しているキサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)について、としまして、研究を行うことになりました。

XORの蛋白相互作用の研究と並行して、XOR遺伝子欠損マウスを作成しました。XOR遺伝子欠損ホモマウスは生後早期に死亡したのですが、当時、XOR活性を阻害することで、心不全モデル動物の心不全が改善することが報告されていたので、死因は心臓にあるのではないかと考えていました。

ところが、詳しく調べてみると、尿細管管腔内へ中性脂肪に富んだ物質やキサンチンおよびヒポキサンチンの結晶が蓄積することで、尿細管間質の線維化が進展し、腎不全のために死亡することが明らかになりました。作成したXOR遺伝子欠損マウスは、帰国後も留学先より送っていただき研究を継続して行っています。

質問2. 生体におけるXORの生理作用は?

XOR研究の歴史は古く、100年以上前に酵素活性が初めて見つかり、これまでに多くの作用が報告されています。とくに下記の作用が有名で、多数の報告が寄せられています。一部の作用は、病態や組織によって相反する作用として働きます。

  • (1)プリン体代謝の最終段階で尿酸を産生(細菌からヒトまで共通)
    ヒポキサンチンよりキサンチン、キサンチンより尿酸の2段階の産生を調整
  • (2)活性酸素産生(スーパーオキシド、過酸化水素)
    [A]組織障害作用(虚血再灌流など)、生体防御作用(殺菌など)
    [B]スーパーオキシドと一酸化窒素(NO)が反応してもたらされるペルオキシナイトライト産生による組織障害作用(血管内皮近傍において)、生体防御作用(乳腺において)[C]過酸化水素による細胞内シグナル伝達
  • (3)亜硝酸から産生されるNOによる組織保護作用(特殊条件下:低酸素条件下など)
  • (4)乳汁分泌への影響(乳腺の構造タンパク質として)
  • (5)インスリン抵抗性の誘導
  • (6)成熟脂肪への分化促進

ただし、XORの作用を考える際には、それがマウスなどのげっ歯類で報告されたものか、ヒトで報告されたものかを区別しておくことがとても重要です。なぜなら、げっ歯類の場合はXOR活性が高く、ほとんどの臓器で普遍的に発現しています。一方、ヒトの場合はXOR活性が低く、肝臓と小腸での発現がメインと考えられているなど、種による違いが大きいからです。

それでは、上記の作用の中でヒトにおいてもXORが発揮している作用はどれでしょうか?種々の総説や論文の中には、マウスやヒトの事象が区別されずに書かれているものもあるので注意が必要です。しかし、ヒトでも多くの報告がある「活性酸素の産生による内皮障害」や「虚血再灌流時の組織障害」は、ヒトでも発揮されているXORの作用だと考えています。

移植臓器の運搬時に、臓器の保存溶液中にXOR阻害薬であるアロプリノールが添加されていたのも、そのことを示唆しているのではないかと思います。

質問3. 血管内皮細胞に存在するXORの作用は?

ヒトの血管内皮細胞に存在するXORの多くは、肝臓や小腸で産生されたXORが血液中に放出され、血管内皮細胞のグリコサミノグリカンにトラップされたものと考えられています。

XORには、尿酸を産生する際に活性酸素を産生しないキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)と活性酸素を産生するキサンチンオキシダーゼ(XO)の2種類の形態が存在しますが、XOの形態を有するのは哺乳類のみです。肝臓や小腸から放出されたXDHは、血漿中でプロテアーゼによりXOに変換され、多くはXOの形態で存在しています。この血管内皮に存在するXOを介して、以下に示すさまざまな病態に関与している可能性が考えられています。

  • (1)生体防御:
    血管内皮表面に存在するXORが活性酸素を産生することで、主に生理的条件下で、殺菌などの生体防御に寄与していることが報告されています。
  • (2)内皮機能障害:
    健康なヒトでは、XORを阻害しても内皮機能に変化を認めませんが、心不全、冠動脈疾患、糖尿病、脂質異常症、喫煙者、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、脳卒中などの基礎疾患を有するヒトでは、XORを介した活性酸素産生が内皮機能障害を引き起こすことが報告されています。
  • (3)組織障害・炎症の誘発:
    虚血再灌流時など多くの病的な条件下では、XORが活性酸素を産生することで好中球を誘導し、組織障害を引き起こします。血管内皮細胞内でのXDH発現量も増加し、XO産生量も増加します。そのため、血管内皮の外・内の両方から組織障害・炎症を引き起こします。
  • (4)細胞内シグナル伝達への関与:
    XORにより尿酸とともに産生されるH2O2が、転写因子の発現制御を介して細胞内のシグナル伝達に関与しているとの報告もあります。
  • (5)亜硝酸還元活性による一酸化窒素(NO)の産生:
    低酸素から無酸素条件下においては、亜硝酸よりNOを産生し、組織保護的に働きます。

通常血管内皮に存在しているXORは、生理的な役割を担っていますが、基礎疾患を有する病的な状況や虚血再灌流時などの細胞障害時には、XORが産生した活性酸素の働きが優位になりデメリットが大きくなってしまうのかもしれません。