監修

裵 英洙(はい えいしゅ)

ハイズ株式会社代表取締役社長
医師、医学博士、経営学修士(M.D.、Ph.D、MBA

 

金沢大学医学部を卒業後、胸部外科を中心に臨床経験を積んだ後、同大大学院にて外科病理学を専攻。病理医として働くかたわら、慶應ビジネススクールにて医療政策・病院経営を学ぶ。在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在、ハイズ株式会社代表取締役として医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザーなどの業務を行っている。著書に、「医療職が部下を持ったら読む本」「なぜ、一流の人は『疲れ』を翌日に持ち越さないのか」「10の仕事を1の力でミスなく回す トリアージ仕事術」などがある。

第12回(最終回) スタッフのやる気が急降下…! ~職員の満足度は患者満足度につながる~

高尿酸血症をふくむ生活習慣病では、診療に対する患者さんの満足が得られなければ、治療自体が成り立ちにくくなります。患者さんの不満は、治療の中断やアドヒアランスの低下などにつながり、クリニックの評価や経営にも影響を及ぼします。しかし、患者さんは医師に対して自分の感情を表現しづらく、医療者側が想像力を働かせ、不満の原因を取り除いていくことが必要だと考えられます。

このコンテンツでは、患者さんと看護師のモノローグを通じて、患者満足度向上のポイントを裵 英洙先生にご解説いただきます。

モノローグを見る

Case 12

今回の登場人物

猫屋敷純平(45歳、男性)ねこやしき内科クリニック 院長

開業から5年を機に患者満足度のアンケート調査を実施。寄せられた意見を踏まえ、クリニックの大改革に踏み切った。新たな予約システムを入れ、生活指導や服薬確認などはなるべくスタッフに任せるようにした。高尿酸血症・痛風の診療を得意としている。性格は心配性。

山田茉実(28歳、女性)ねこやしき内科クリニック 看護師

3年前にねこやしき内科クリニックに入職。クリニックの大改革後に、高尿酸血症・痛風の生活指導や服薬確認も担当するようになった。もともと明るい性格で患者にも人気があったが、最近は…?

中畑幸恵(57歳、女性)専業主婦

市の健康診断で腎機能の軽度低下と高尿酸血症(8.7mg/dL)を指摘されたため、数年前からねこやしき内科クリニックに通っている。尿酸降下薬の処方に加え、定期的な検査と生活指導を受けている。自分の子どもと同じくらいの歳である山田茉実を可愛がっている。性格は温厚。

ねこやしき内科クリニックの看護師、山田茉実は更衣室で息を整えた。周りのスタッフの視線が冷たく刺さるが、仕方ない。喘息でも貧血でも過換気症候群でもなく、単に遅刻ギリギリで走ってきただけだから。もう半年前になるだろうか。患者満足度調査に端を発したクリニックの大改革は、スピード感をもって実施したいという号令がかかり、新旧の予約システムの細かな不整合が放置され、スタッフ間の混乱を招いていた。「無理に新しくしなくても良かったのに…」もう誰もいない更衣室に捨て台詞を残して、生活指導室へと向かった。

組織は慣性の法則に従う スタッフが一番ストレスに思うこと

組織は慣性の法則に従う

明日から、来月から、今年度から、と目標を定めるのはいいのですが、組織というものは一朝一夕ですぐに変わるということはありません。車が急に止まれないのと同じように、組織も慣性の法則に従うのです。組織を変えるためには、「じわりと変えていく」という感覚を、院長やリーダーが持たなくてはいけません。組織の規模が大きければ大きいほど、時間がかかるものです。組織を変えたいなら、まず半年や1年後ぐらいのスパンでゴールを決めて、そこから遡って、3ヵ月後にはこれぐらい、6ヵ月後にはこれぐらいという風に、経過のイメージを示してあげると良いでしょう。

スタッフが一番ストレスに思うこと

組織の改革を行う際に、スタッフが一番ストレスに感じることは「変える理由がよくわからない」ということです。その改革がどんなに医療の質を改善したり、患者さんやスタッフの満足度を高めたりするものであっても、説明がきちんとなされていなければ納得感はなく、スタッフには変化に伴うストレスだけが溜まっていくのです。

中畑幸恵は、山田から元気や笑顔がなくなってきたことに気づいていた。「中畑さん、お薬はきちんと飲めましたか?」「以前、先生からも説明があったと思いますが、今日は改めて尿酸値が高いと腎機能が低下しやすいというお話をさせていただきますね」――真面目に説明してくれるのは変わりないが、以前のような人懐っこい明るさはない。きっと、何か悩みがあるのだろう。

離職に至るプロセス 管理職は行動力よりも観察力

離職に至るプロセス

離職という一大決心は、決して一朝一夕でできるものではありません。「辞めたい」という気持ちを水に、心の余裕をコップにたとえるなら、コップに水が注がれて満杯になり、あふれた時点で離職という行動に出るのです。コップに水が入っていく過程で、職員は「離職シグナル」を発信しています。よくある離職シグナルを表にまとめていますので、参考にしてください。要は仕事への関心が薄れ、職場の人間関係も希薄になってきたら要注意だということです。これらのシグナルに、いかに早く気付くかが問われます。

職員が発する離職シグナル

裵 英洙:医療職が部下に悩んだら読む本.p33,日経BP社,2016

管理職は行動力よりも観察力

院長をはじめとした管理職というのは、行動力よりも観察力が大事です。まずは、モーターを磨くよりもセンサーを磨いてください。すなわち、目配り、心配り、気配りをする。管理職は、上に立つからたくさん見えるはずなのです。いいかえると、上に立つからには色々なことを見るように意識しないといけません。観察力を発揮すれば職員の変化に気付けるはずです。また、気が向いたときだけ観察するということではいけません。継続的に見ていないと「あれ、最近変わってきたな」という感覚が起こり得ないので、こまめに職員のことを観察しましょう。ただし、じっと見ていればいいわけではなく、そこにコミュニケーションを介在させることが大事です。ひとつのやり方として、たとえば火曜日の夕方は職員とコミュニケーションをとる日に設定しておくと、ある程度流れがとらえやすくなります。「最近口数が少ない」、「最近コミュニケーションの日に遅刻してくる、避ける」などのシグナルがあれば、何かがおかしい、と気づくことができます。

生活指導室から中畑を見送った後、山田はため息をついた。猫屋敷先生は、私のポテンシャルを見込んで生活指導を任せてくれたらしいけど、患者さんに心配されているようでは失格ね。本当は猫屋敷先生に色々なことを相談したいんだけど、いつも忙しそうだし、がっかりさせてしまいそうで怖いな。むしろ、迷惑をかけないうちに退職してしまおうか…仕事はほかにいくらでもあるのだから。

離職を防ぐNot to Do 辞めたい職員とのコミュニケーション ブーメラン離職

離職を防ぐNot to Do

職員の離職を防ぐNot to Do

裵 英洙:医療職が部下に悩んだら読む本.p48-50,日経BP社,2016より改変

辞めたい職員とのコミュニケーション

辞めたいと思った職員に対しての標準的なコミュニケーションのポイントは4つあります。(1)辞める理由となった問題点を本音で聞き出す。(2)辞めることが本当にその人にとってベストな選択肢なのかを、一緒に本気で考える。(3)退職がベストだという結論に至ったときには、一緒に働いてくれてありがとうという感謝の気持ちを伝える。(4)またいつでも縁があったら一緒に働きたいという気持ちを伝える。

ブーメラン離職

一度辞めたけれども、また帰ってくる。ブーメラン離職とでもいいましょうか。近年では一般企業でも、いわゆる「出戻り制度」を採用するところが増えているようです。院長のことは嫌いではない。クリニックのことも嫌いではない。ただクリニックで働いているある特定のメンバーだけが嫌いだという理由で辞めるのであれば、もしかすると3年後にはその人は辞めているかもしれません。そうなったらまた戻ってくる可能性はあるわけです。医療機関の採用活動は大変なので、いったん辞めた人も次の採用ターゲットになるのは当然だと思います。こちらから「半年に一度ぐらいは会おうよ」といって、連絡のきっかけをつくってあげるのがポイントです。逆に、「辞めるんだったら勝手に出ていけ」というようなケンカ別れは経営面から見ても大きなリスクになります。円満退社ができないということは、退職者はもちろん、残された側にとっても大きなダメージになるということを念頭に置いて真摯に対応したいものです。

昼休み中に転職エージェントとの連絡を取ろうと、クリニックの敷地外へ出ようとしたとき、向かいの薬局から出てくる中畑さんと鉢合わせた。「山田さん!」思わずスマホを隠す。「あのね、老婆心だけどね、猫屋敷先生はいい先生だから!何かあったらすぐに相談しなさい。絶対に親身になってくれるから。遠慮することなんてないのよ!」中畑さんの手の温かみを感じながら、泣かないように、頷いた。

それから数ヵ月後。ねこやしき内科クリニックでは山田がはつらつと仕事をしていた。山田の相談をきっかけに、院長が今回の改革の問題点を職員から丁寧にヒアリングしたことで、隠れていた多くの問題点が発見・解決され、業務効率が向上した。さらに院長をはじめスタッフ同士で褒め合う文化が根付き、クリニックの雰囲気が明るくなった。その後に行った2回目の患者満足度調査の結果では、初回を上回る好成績を記録した。

患者さんの満足度を上げるには

患者さんの満足度を上げるには

これまで12回にわたり、さまざまな角度から患者さんの満足度を上げるためのポイントをお話ししてきました。最後に、拙著(裵 英洙:医療職が部下に悩んだら読む本.日経BP社,2016)から上手な褒め方のコツをご紹介いたします。褒めることが重要であることはいうまでもありませんが、褒めるにも作法があります。

(1)プロセスに注目する:「褒めるところがない」、「結果が出ていないので褒められない」と結果に偏重するのではなく、プロセスに着目すれば褒めるところは必ず見つかるはずです。
(2)基準をきちんと考える:褒める基準を設定する際には、自分を基準にするのではなく、必ずその人の以前の状態と比べてどうか、ということを考えてください。その人の努力を感じ取ったときには、褒める度量を持ちたいものです。
(3)褒めるタイミング:鉄は熱いうちに打つのが大事です。成果を出したとき、成果が確認できたときにはすぐに褒めましょう。直接いえない場合はメールや電話でもいいですよ。
(4)褒め言葉のマジックワード「さ・し・す・せ・そ」を上手に使う

裵 英洙:医療職が部下に悩んだら読む本.p57,日経BP社,2016

(5)第三者の口から伝える:褒められていることを第三者から間接的にいわれると、嬉しい気持ちになるものです。自分への評価を第三者にも伝えてくれたという事実がモチベーションアップにつながります。

この考え方は医療機関のスタッフや部下にはもちろん、患者さんへの対応にも応用できます。今までにご紹介したさまざまなスキルを駆使して、医療に関わる全ての人々の満足度を向上していただければ幸甚です。最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。

ウリアデック ワンポイント インフォメーション 患者満足度向上のための資材

三和化学研究所では、高尿酸血症の疾患啓発や生活指導にご活用いただける、さまざまな資材を準備しております。日々の診療にご活用いただき、患者満足度の向上にお役立て頂けますと幸いです。興味がございましたらぜひ、弊社MRまでお申し付けください。

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