監修

裵 英洙(はい えいしゅ)

ハイズ株式会社代表取締役社長
医師、医学博士、経営学修士(M.D.、Ph.D、MBA

 

金沢大学医学部を卒業後、胸部外科を中心に臨床経験を積んだ後、同大大学院にて外科病理学を専攻。病理医として働くかたわら、慶應ビジネススクールにて医療政策・病院経営を学ぶ。在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在、ハイズ株式会社代表取締役として医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザーなどの業務を行っている。著書に、「医療職が部下を持ったら読む本」「なぜ、一流の人は『疲れ』を翌日に持ち越さないのか」「10の仕事を1の力でミスなく回す トリアージ仕事術」などがある。

第9回 誰の意見を信じるべきか? ~ノイジーマイノリティvsサイレントマジョリティ~

高尿酸血症をふくむ生活習慣病では、診療に対する患者さんの満足が得られなければ、治療自体が成り立ちにくくなります。患者さんの不満は、治療の中断やアドヒアランスの低下などにつながり、クリニックの評価や経営にも影響を及ぼします。しかし、患者さんは医師に対して自分の感情を表現しづらく、医療者側が想像力を働かせ、不満の原因を取り除いていくことが必要だと考えられます。

このコンテンツでは、患者さんと院長のモノローグを通じて、患者満足度向上のポイントを裵 英洙先生にご解説いただきます。

モノローグを見る

Case 09

今回の登場人物

猫屋敷純平(45歳、男性)ねこやしき内科クリニック 院長

5年前に開業し、ここ数年でだいぶ経営が安定してきた。高尿酸血症・痛風の診療を得意としている。数ヵ月前に初めて患者満足度のアンケート調査を実施。開業当初から懇意にしていた患者から多数の厳しい意見が寄せられ、ショックを受ける。性格は心配性。

佐藤辰夫(65歳、男性)定年退職/NPO法人ボランティア

5年前に痛風発作を起こしたことをきっかけに通院し始め、以後継続して尿酸降下薬を服用している。患者満足度調査では日頃の感謝の気持ちを込めて、あえて厳しい意見を記載した。性格は真面目で温厚。

太田英明(35歳、男性)総合電機メーカー人事部社員

1年前に健康診断で高尿酸血症と肥満を指摘されて受診した。尿酸降下薬を服用中。患者満足度調査では選択肢はすべて真ん中に丸を付け、自由記載欄は空白で提出した。のんびりした性格。

土曜の夜。クリニックの近くにある寿司屋にスタッフ全員が集まったのを確認すると、猫屋敷はおもむろに立ち上がった。「来週から新しい予約システムが始まります。これは、以前実施した患者満足度調査を踏まえ、待ち時間の短縮と、個人情報への配慮を目的としています。皆さんには準備段階からご協力をいただき、ありがとうございます。これからも患者さんに満足いただける診療を提供すべく、頑張っていきましょう。…乾杯!」

解決策を考えるときの鉄則

解決策を考えるときの鉄則

患者満足度調査から解決策を考えるときの鉄則があります。それは「患者さんからのクレームが多くて、すぐできるところから手をつける」こと。課題に優先順位を付けるために、調査結果を4象限に分類してみましょう。横軸は「クレームが多いもの」と「クレームが少ないもの」、縦軸は「すぐできるもの」と「すぐできないもの」とします(すぐできる=コストが安くて人手もかからない)。この4象限のうち、最も優先すべき課題は「クレームが多い・すぐできる」と分類されたものです。逆に、「クレームが少ない・すぐできない」ものはやらない、もしくは後回しという判断をすべきです。

開院当初から懇意にしてきた佐藤さんから厳しい意見をいただいたときはショックだったが、当院への期待値の高さの表れだと考えるようにした。待ち時間が長いという意見は複数あったので、新たに予約システムを入れ、生活指導や服薬確認などはなるべくスタッフに任せる。

予約システム

予約システム

予約システムの導入や見直しには大きなコストがかかります。まずは現状どれくらい予約時間からの逸脱があるのかを調べなくてはいけません。予約時間±30分が常時起こっているとなるとシステムの問題でしょうが、たまにしか起こらないならば、システムに対する投資に妥当性があるかどうか、きちんと考えなければいけません。

そして、佐藤さんが指摘してくれた個人情報への配慮として、待合室内ではランダムに生成した3桁の番号で呼ぶようにする。

ノイジーマイノリティ

これでうまくいくだろうか。いや、きっと喜んでくれるはずだ――。

ノイジーマイノリティ

経営経験が少ない方は往々にして、声が大きなひとつのクレームにすぐに対応しようとしてしまいます。ひとりの声を全ての患者さんの声だと勘違いしてしまい、科学的な検証なしに感情的に進めてしまうのです。見直しの前に、いま一度、本当にこの患者さんの声がサイレントマジョリティ(物言わぬ多数派)の声を代弁しているのか、それともこの人(ノイジーマイノリティ:声高な少数派)だけの声なのかということを検証してみましょう。追加のアンケートを実施するなどして、その声が支持されるかどうか問うてみると良いと思います。

月曜の朝。ねこやしき内科クリニックを訪れた太田英明は違和感を覚えた。受付で渡された「666」の番号札に面食らったのもあるが、スタッフが妙にバタバタしている。「666番さ~ん」と呼ばれた部屋には看護師がいて、高尿酸血症が痛風のみならず腎機能にも良くないこと、高尿酸血症治療は慢性腎臓病(CKD)の発症・進展抑制も期待されることの説明を受けると、プリン体やアルコールの量を減らせているか、運動はしているか、薬をきちんと飲めているかどうかを聞かれ、採血のために腕首のボタンをはずすよう促された。あれ、猫屋敷先生は今日お休みなのかな?

再び待合室で待っていると、スタッフのひとりが何本も電話をかけていることに気が付いた。「先日の予約日でお越しにならなかったのでお電話しました」へ~、こういうサービスもしているんだ。でも大変だろうな。

PDCAサイクル 改善のQST

そんなことを考えているうちに「666…番の方、診察室にお入りください」というやや焦った声のアナウンスが聞こえてきた。なんだ、猫屋敷先生いるじゃん。

PDCAサイクル

医療現場はただでさえ忙しいので、改善活動で新たに増える業務負担は極力小さくし、そしてすぐに結果が出るものを設定するのが大事です。今回のお話では、新たな予約システムの導入に加え、スタッフへの負担がかかる取り組みを同時に始めてしまっていましたので、あまり良いやり方とはいえません。改善活動ではよく「PDCA(Plan・Do・Check・Action)を回す」という言葉が使われますが、これは基本的に大きく回すのではなく、小さく高速で回すものです。大きなプランを描いて、あれもこれもやろう、1年がかりでみんなで頑張ろう、というよりも、ひとりでできることを3日やってみよう、というように設定するのが基本です。医療現場では、大きいPDCAを0.7回転ぐらいして何となく終わりになるようなことが多いように感じています。そうではなくて、小さいPDCAを高速で回すことで、改善の効果が目に見えやすいですし、スタッフに改善癖を付けさせることもできます。いい換えれば、PDCAのPが小さく、D、C、Aと大きくなるようなパターンが望ましく、逆にPが大きくて、D、C、Aと小さくなっていくパターンはNGです。

改善のQST

PDCAに関連して、業務の改善活動には「QST(Quick Win・Small Win・Triple Win)」という概念があります。Qは「すぐに答えが出る」、Sは「小さい成果でもいい」、Tは「3回連続で行う」という意味です。このようにPDCAを回していくと、スタッフに勝ち癖が付きます。そういう方向に進むよう、院長やリーダーがマネジメントしてあげると良いでしょう。

「こんにちは、今日は薬がなくなったので受診されたのですね?」「はい」「先ほどの看護師から、ろく…太田さんはしっかり薬が飲めているという報告がありました。尿酸値も4.8mg/dLと低いので、ぜひこのまま続けてくださいね」「はい」「何か質問はありますか?」…あれ?もう終わりなの?前回までは猫屋敷先生が色々話をしてくれたのに…「太田さん?」「あ、はい、大丈夫です」何だか先生との距離が遠くなった気がする。でも、仕方ないのかな。診察室のドアを閉め、ぎゅっと番号札を握りつぶした。

サイレントマジョリティ

サイレントマジョリティ

サイレントマジョリティ(物言わぬ多数派)は、いいたいことはあるけれども別にいわなくてもいいかなと思っているような人たちなので、「何かありますか」と抽象度の高い質問をしても返事はありません。具体的に「待ち時間に問題があるのではないか」などと仮説を立てて、「待ち時間に対して何か問題に思っていることはありますか」というふうに聞くと、返事をもらいやすくなります。つまり、サイレントマジョリティは、質問が悪いからサイレントにならざるを得ないのです。そういう意味では「質問力」を鍛えるのも大事なことだと思います。

ウリアデック ワンポイント インフォメーション 中等度腎機能障害合併の高尿酸血症患者におけるウリアデックの尿酸低下作用とアルブミン尿への影響

第Ⅲ相試験(中等度腎機能障害合併患者を対象とした二重盲検試験)

目 的
中等度腎機能障害を合併した痛風をふくむ高尿酸血症患者を対象に、ウリアデックの有効性及び安全性をプラセボを対照として検討する。
対 象
中等度腎機能障害(CKDステージ3)を合併した痛風をふくむ高尿酸血症患者(血清尿酸値:痛風関節炎の既往又は痛風結節のある患者7.0mg/dL以上、上記以外の患者8.0mg/dL以上)(腎機能:30≦推算糸球体濾過量(eGFR)<60mL/min/1.73㎡)123例[プラセボ群61例、ウリアデック群62例]
試験方法
多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験
投与方法
ウリアデック群及びプラセボ群に無作為化し、ウリアデック又はプラセボを1日2回(朝夕食後)、22週間経口投与した。ウリアデックは40mg/日から開始し、投与開始2週後に80mg/日、6週後に120mg/日、14週後に160mg/日へ段階的に増量した。
注)投与2週後、6週後、14週後、22週後に痛風関節炎が発現していた場合、最大1週間までそれぞれの用量で投与を継続した。
評価項目
有効性[主要評価項目として血清尿酸値低下率及びeGFR変化量、副次評価項目として血清尿酸値6.0mg/dL以下の達成率、尿アルブミン/クレアチニン比、家庭血圧など]、安全性
安全性
副作用は、ウリアデック群62例中25例(40.3%)、プラセボ群60例中14例(23.3%)に認められた。主な副作用(発現率が5%以上)は、ウリアデック群で痛風関節炎、ALT増加、AST増加、プラセボ群は痛風関節炎、尿中アルブミン隠性であった。
本試験において重篤な副作用は、1例(多発性関節炎)に認められた。副作用により投与中止にいたった症例は、3例(AST増加、ALT増加、湿疹、多発性関節炎)であった。
使用上の注意(一部抜粋)
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)重度の腎機能障害のある患者[使用経験がなく安全性が確立していない。]

(株)三和化学研究所 社内資料:第Ⅲ相CKD試験【承認時評価資料】
Hosoya T, et al. : Clin Exp Nephrol 18 (6) : 876, 2014

ウリアデックは中等度腎機能障害合併患者に対する有効性と安全性を二重盲検試験下で確認しています。本試験では優れた尿酸低下作用に加え、アルブミン尿への影響が認められています。

pagetop

Copyright © SANWA KAGAKU KENKYUSHO CO., LTD. All Rights Reserved

M3.Inc

pagetop